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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と妊活【その2】:妊活や不妊治療を続けても大丈夫なの?

川口 優太郎先生

川口 優太郎先生

皆さんこんにちは。

前回、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と妊活【その1】では新型コロナウイルスがどのようなウイルスなのか、また妊娠中の女性や、妊娠を目指す女性に対してどのような影響が考えられているのかについてお伝えしました。

世界的に見ても、COVID-19の妊産婦の感染者がまだまだ少ないことから、具体的にどのような障害があるのかは未知数である一方で、インフルエンザや他のコロナウイルス感染症と比較して、死亡率が有意に高く、感染力も強いという非常に恐ろしいウイルスであることをご理解いただけたかと思います。
今回の、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と妊活【その2】では、この恐ろしいウイルスの感染が拡がっている現在の状況下において、妊活を継続していくとどのようなリスクが伴うのか?また、妊活や不妊治療をしても大丈夫なのか?についてお話をしていきたいと思います。

COVID-19によって引き起こされる妊娠へのリスクとは?

日本産科婦人科学会は、4月7日付けで発表した“新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版)の中で、「”現時点では、インフルエンザのように、特に妊産婦における重症化や死亡率が特に高いという報告は無い」という見解を示しています。

その一方で、未だ症例数が少なくリスク評価は未知数であることなどを挙げ、妊婦本人や医療スタッフの感染リスクを避けるため、「必要な診察や検査は最小限とすること」や「診察や分娩の付き添いや帰省分娩を推奨しないこと」などを提言しています。

また、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)でも、会告の中で「COVID-19が妊婦に対して悪影響であるという強い証拠は、現在のところはまだ見つかっていない」としていますが、中国・武漢で報告されたケースをいくつか取り上げ、COVID-19に罹患した妊婦では早産の傾向があったことや、出生後数時間しか経過していないの新生児の感染が認められるなど垂直感染が疑われる症例があったこと、COVID-19に感染した妊娠34週の妊婦において重症肺炎による子宮内胎児死亡症例があったことなどを紹介し、「実際の影響については、現状では症例が極めて少なく、母子ともにどのような障害があるのかは未知数である」としています。

さらに、世界中の多くの有識者は、2002年に世界的に感染が拡大したSARSや、2012年から現在もなお感染が確認されているMARSなど、他のコロナウイルス感染症が流行した時の症例報告にも着目しています。

というのも、過去SARSやMARSの爆発的な感染が確認された際に、妊産婦の子宮内からのウイルスが検出されたことや、流産、早産、胎児発育不全、胎児死亡、新生児死亡、母体死亡などに関する報告が非常に多くあったため、今回のCOVID-19においても、今後そのような報告が次々と出てくる可能性があるのではないか?ということを懸念しているためです。

妊娠を避けること。不妊治療は延期または中止を推奨

では、このようなリスクがある中で、妊活や不妊治療を継続しても良いのでしょうか?

実のところ、3月19日にESHREより発表された新型コロナウイルス感染拡大状況下における“不妊治療ガイダンスでは、『妊娠を計画している者、ならびに妊娠に向けて不妊治療を行って”いる患者は、妊娠を避けるように努めることを推奨する』との方針が出されました。

また、『現在、不妊治療中の患者においては、すべての受精卵を凍結の上、移植時期の延期について検討すること』と定めました。

『妊娠を避けることを推奨』という非常に重たい指針を出した決定的な理由の一つとして、ただでさえCOVID-19によって医療現場がひっ迫しているにも関わらず、衛生管理が複雑な妊婦が増えてしまうことは、現状の医療システムに追加の負荷を与えかねないため、医療崩壊を回避するための義務であるという観点を挙げています。

この会告を受けて、ヨーロッパ全体の約7割以上の施設において、治療の延期または中止が実行されたとされています。(※現在はやや緩和の方向)

ESHREからの会告を受けて、日本生殖医学会からも4月1日付けで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する声明が発表されました。

大まかな治療方針などについては、ESHREと同様に『凍結を行った上で、移植時期の延期を検討』としており、この他、『不妊検査や人工授精、生殖外科手術など、延期が出来るものについては可能な限り延期を考慮すること』と定めています。

つまり、結論を言うと、基本的に現在の状況下では『一般的な妊活や、不妊治療を含めて妊娠“”自体があまり推奨される局面では無い』ということです。

今回の日本生殖医学会の声明に関しては、厚生労働省をはじめ、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会なども「この声明を支持する」としています。

妊娠は”禁止”ではなく、あくまで”推奨”

ただし、日本生殖医学会でもESHREでも、妊娠を”禁止”としているわけではありません。

日本では、憲法第十三条幸福追求権に基づいて、女性が子どもを産む権利・産まない権利が認められているため、強制的に妊娠を”禁止”させることは出来ないのです。

ですので、医療サイドとしては状況を判断するために必要な情報を発信した上で、最終的には銘々の自己判断・自己責任に委ねています。

そのため、『不妊治療が推奨される局面では無い』という方針を、学会側が出すという過去に例を見ない事態でありながらも、患者様の希望があれば、それを強制的に断ることが出来ず、現在でもいくつかの施設で、安全性や衛生面を考慮した上で継続して治療が行われています。

さて今回は【その2】として、現在の状況下で妊活や不妊治療をしても良いのか?ということに焦点を当ててお話しをしてきました。もちろん妊活を進めていく上で、個人個人の思いがあることや、年齢的な焦りがあることなどは当然だと思います。

しかしながらその一方で、妊娠を目指す皆様におかれましては、とにかく今は全世界中がそれだけの非常事態であることを認識していただき、スマートな意識変換と行動が求められています。少なくとも、外出を伴う治療は、自分が感染する可能性はもちろんですが自分が感染源になってしまう可能性も十分にあります。

病院という多くの人が出入りする施設は、クラスター(感染群の集団)にもなりやすい環境です。妊娠した時、最も危険にさらされる可能性が高いのはお腹の中の赤ちゃんであり、今が本当に治療のタイミングとして適しているのか、パートナーや通院先の医師らと一緒に、いま一度冷静な判断をした上で、適切な行動を心がけるようにしましょう。

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川口 優太郎先生

川口 優太郎先生

埼玉医科大学を卒業後、総合病院勤務を経た後に、国際基督教大学(ICU)大学院博士前期課程へと進学。アーツ・サイエンス研究科にて生命科学を専攻。大学院修了後は、加藤レディスクリニック(新宿区)に勤務。同クリニックの系列病院となった中国上海永遠幸婦科医院生殖医学センターへ出向し、病院の立ち上げに携わるとともに、現地スタッフの育成・指導や培養室の運営などを行う。 その後、2018年に東京都渋谷区に新規開院となった桜十字渋谷バースクリニックに培養室の立ち上げスタッフとして赴任。培養室主任を務め、指導要領の作製や培養室の運営管理とともに、生殖医療関連のセミナーにて講演を行うなど、精力的に活動。 現在は、千葉県船橋市に所在を置く船橋駅前レディースクリニックにて、培養室室長に就任。