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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と妊活【その3】:妊活や不妊治療を再開するタイミングはいつだろう?

川口 優太郎先生

川口 優太郎先生

皆さんこんにちは。

前回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と妊活【その2】では、新型コロナウイルスの感染が拡大している現在の状況下で妊活を行うことには非常に大きなリスクが伴う可能性があること、そしてヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)をはじめとする医療サイドの見解としては、『現在の世界的な動向においては、妊娠そのものがあまり推奨される局面ではない』ということについてお伝えしてきました。

一方で、私が勤めているクリニックの患者様からも聞かれる声として「年齢的な焦りがあるので、治療を継続したい」、「仕事復帰の時期を考えると、少しでも早く妊娠したい」といったものが非常に多くあります。

確かに、個人個人でこういったさまざまな想いがあることは、至極当然なことだと思います。しかしながら、現在は、世界中でCOVID-19による死者数が24万人をとうに超え、現在も増え続けているという過去に類を見ない危機的状況であり、決して大袈裟な話しでは無く、全世界の人々が協力してSARS-CoV-2という未知のウイルスに立ち向かい収束を目指さなければいけません。

自分が感染しないため、そして自分が他者を感染させないため、いま一度、皆さんの冷静な判断と行動が求められています。では、妊活や不妊治療を一旦ストップしたとして、一体いつまで自粛を続ければ良いのでしょうか?

今回は【その3】として、妊活や不妊治療を再開するタイミングに焦点を当ててお話ししていきたいと思います。

SARS-CoV-2感染拡大の沈静化

妊活を再開する目安には、大きく2つのフェーズがあります。1つ目のフェーズは『国内での新型コロナウイルスの急速な感染拡大の危険性が無くなること』です。

そもそも、新型コロナウイルス感染について懸念されていることは、妊産婦におけるCOVID-19の重症化の可能性、施設への通院や医療行為による新たな感染の拡大の可能性、妊産婦がひっ迫する現状の医療システムに負荷を与える可能性などです。

どれにも共通して言えることが、とにかく『感染しない』そして『感染させない』ことです。つまり、感染の危険性が無くなることが、治療再開の一つの目安と言えます。

これだけ書くと「それって、まだまだ先なんじゃないの?」と思われるかもしれません。

確かに日々の感染者数という数字だけを追っていると、沈静化はまだまだ先と感じてしまうか“”もしれませんが、現在、SARS-CoV-2感染に対してどのくらいのリスクがあるのかを把握するため、政府が新しく『抗体検査』の導入を検討しています。

抗体検査とは、簡単に説明するとCOVID-19に罹患した人がどれだけいるのかがわかる検査です。

通常、人間はウイルスなどに感染すると、そのウイルスに対抗するために、体内で武器となる抗体を作ります。

抗体を持っていれば、すでに一度感染済みと判断することが出来、ウイルスが体内に入ってきても闘うことが可能になるため、感染の抑制や重症化のリスクを顕著に低減させます。

COVID-19で問題となっているのが『無症状患者』の存在ですが、これは、SARS-CoV-2に感染しているにも関わらず、発熱や呼吸器障害などの症状が全く出ない方を言います。

すでにアメリカ・ニューヨーク州では世界に先立って抗体検査が実施されていますが、全体の13.9%で陽性が判明し、ニューヨーク市だけに焦点を当てると21.2%に陽性が判明したとされています。

実のところ、これは驚異的な数字です。どういうことかと言うと、無症状での罹患を含め、約5人に1人がすでにSARS-CoV-2に感染した可能性があるということになります。

抗体を持っている人が今後増えていけば、当然、新たに感染するリスクや、感染後に重症化するリスクは下がります。

単純に感染者数が減ることももちろんそうですが、抗体を持った人が増えていくことも新型コロナウイルス沈静化の判断材料になりますので、妊活再開の目安になっていくと思います。

COVID-19予防薬・治療薬の開発

2つ目のフェーズは『妊娠を目指している方や、妊婦さんに対して使用できるCOVID-19予防薬や治療薬が開発されること』です。

現在、メディアでも”アビガン”や”レムデシビル”といった抗ウイルス薬が度々取り上げられており、皆さんも一度は耳にしたことがあるかと思いますが、実はこれらのお薬は、妊産婦に対する使用は禁忌の薬剤とされています。

そもそもアビガンは、従来、インフルエンザに対するお薬として使われていますが、動物実験において催奇形性を示すことが明らかとなっており、胎児の奇形はもちろん、流産や死産を引き起こす可能性が示唆されています。

少し古いお話しですが、1960年代にサリドマイドという鎮静・睡眠剤が発売され、当初は「安全無害なお薬」とされていましたが、このお薬を使用した妊婦から、手や足、顔の一部、内臓器などに奇形を有した子どもが世界各地で次々と産まれてきたことで、世界規模の薬害事件として知られるようになりました。

後に、サリドマイドに強い催奇形性があったことがわかりましたが、このお薬による薬害を受けた子どもは世界中で実に1万人を超えると伝えられています。多くの有識者は、このような過去の教訓から「アビガンが第二のサリドマイドになってしまうのではないか?」と懸念しているのです。

また、アビガンは、妊娠中の胎児や母乳などに移行するだけでなく、男性においては精液中にも移行することが知られています。

精子の形成には、約70~120日かかると考えられているため、万が一COVID-19に罹患し、アビガンを服用したら、少なくとも4ヶ月以上は妊娠を回避しなければならないと思われます(※今後、学会より正確な指針が出ると思われます)。

現在のところ、妊娠を目指している方々や妊婦さんがCOVID-19に罹患した場合、使用の安全性が確保されている薬剤は存在しませんので、最悪の場合、死亡リスクが高くなってしまうことも考えられます。

そのため、妊娠を目指している方や、妊婦さんに対して安全に使用できる薬剤が開発されることが妊活再開の目安になると言えます。

今回は、妊活や不妊治療再開のタイミングをテーマにお話ししてきましたが、感染収束の先行きがなかなか見えてこない中で、皆さん様々な不安を抱えられていることと思います。

これを受けて厚生労働省は、4月9日付けで「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の取扱いについて、治療費の助成金給付の年齢上限や給付条件の緩和などを決定しました。

妊活や不妊治療の延期あるいは中止は、なかなか受け入れがたいものであることは生殖医療に関わる多くの人間が重々承知していますが、今の状況が本当に妊娠に適しているのか、いま一度冷静な判断の下、このような政府の取り組みも有効に活用しながら、前向きに妊娠を目指せるように気持ちを切り替えていきましょう。

参考:Schwartz DA, Graham AL. Potential and maternal infant outcomes fromcoronavirus 2019-nCoV (SARS-CV2) infecting pregnant women: Lessons from SARS,MERS, and other coronavirus infection. Viruses 2020;doi.org/10.3390/v12020194

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川口 優太郎先生

川口 優太郎先生

埼玉医科大学を卒業後、総合病院勤務を経た後に、国際基督教大学(ICU)大学院博士前期課程へと進学。アーツ・サイエンス研究科にて生命科学を専攻。大学院修了後は、加藤レディスクリニック(新宿区)に勤務。同クリニックの系列病院となった中国上海永遠幸婦科医院生殖医学センターへ出向し、病院の立ち上げに携わるとともに、現地スタッフの育成・指導や培養室の運営などを行う。 その後、2018年に東京都渋谷区に新規開院となった桜十字渋谷バースクリニックに培養室の立ち上げスタッフとして赴任。培養室主任を務め、指導要領の作製や培養室の運営管理とともに、生殖医療関連のセミナーにて講演を行うなど、精力的に活動。 現在は、千葉県船橋市に所在を置く船橋駅前レディースクリニックにて、培養室室長に就任。